5 月 26 日の昼に AdMob の管理画面を開いて、AppLovin と AppLovinMax の Bidding ソースと Waterfall ソースを、私の iOS/Android アプリ 5 本すべてで Pause しました。INT・RWD・RWI の 3 フォーマット。月収にして約 $730 が止まります。
廣川政樹です。2014 年から個人開発で iOS/Android アプリを続けていて、累計で 5,000 万 DL を超えています。AppLovin は 2022 年に主要アプリすべてに統合した広告パートナーで、月収 100 万円超を支えてきた SDK の一つでした。それを切る判断に至るまでの 3 つの証拠と、停止後 4 週間の評価設計を、この記事で公開します。
「収益化を AdMob だけでなく複数ネットワークで回しているが、たまにユーザー離れと収益のどちらを取るかで迷う」「ユーザーから『閉じられない広告』『報酬が付かない』のフィードバックがあるがどう判断していいか分からない」「収益が下がっても切るべきネットワークの見極め方を体系化したい」あたりで悩んでいる方を想定読者にしています。
月 $730 を捨てる判断に必要だった 3 つの証拠
「お金を捨てる方の判断」は、感覚や疑いだけでは決められません。私が AppLovin 全停止に踏み切るために集めた証拠は 3 つです。どれも単独では決定打にならないものを、3 つ揃えることで判断が確定しました。
証拠 1 — AppDiscovery の異常な広告品質指標
AppLovin には 2 つのダッシュボードがあります。Publisher 側で広告を表示するための AppLovin MAX と、Advertiser 側で「他アプリに自分のアプリの広告を出す」AppDiscovery。多くの開発者は MAX しか見ません。AppDiscovery の存在を私が把握したのも、調査の途中でした。
AppDiscovery の過去 30 日(2026-04-27〜05-26)の配信実績がこれです。
アプリ Platform Imp Click CTR Rev eCPM RPC
Beautiful HD Wallpapers iOS 190,352 16,272 8.56% $618.70 $3.25 $0.038
Beautiful 4K/HDR Wallpapers Android 84,218 10,981 13.04% $101.53 $1.21 $0.0092
Relaxing Healing iOS 16,357 29 0.18% $0.16 $0.01 —
Law of Attraction Everyday iOS 15,017 96 0.64% $0.55 $0.04 —
Ukiyo-e Wallpapers Android 8,986 644 7.17% $9.10 $1.01 $0.014
Ukiyo-e Wallpapers iOS 1,996 35 1.75% $0.12 $0.06 —
合計 316,926 28,057 8.86% $730.15 $2.30 —ここで注目したのは Beautiful 4K/HDR Wallpapers (Android) の行。CTR 13.04% × RPC $0.0092 × eCPM $1.21。
健全な広告配信の範囲は、CTR が 2〜5%、RPC(クリックあたり収益)が $0.10〜$0.50 です。CTR 13% は健全範囲の 2.5〜6 倍。RPC $0.0092 は健全範囲の 1/10〜1/50。「クリックは大量に発生するが、install には繋がらず、実収益は微々たるもの」 という、誤タップ・misleading クリックの典型パターン。
AppLovin Network は CPI 課金(インストール課金)が中心なので、click が install に転換しないと収益化されません。CTR が異常に高く RPC が異常に低いという 2 軸の同時異常は、「閉じられない広告 → 誤タップ → install には繋がらない」という UX 問題のシグナルそのものです。
証拠 2 — ユーザー直接観察
AppLovin の RWD(リワード動画広告)をテストモードで自分のアプリ内で再生したとき、視聴完了後に「クリック以外の選択肢がない」「報酬も付与されない」挙動を確認しました。
通常 RWD の opt-in 安全性の前提は次の 2 つです。
- 視聴完了したら報酬が確実に付与される
- 視聴後に閉じる導線が明確に提供される
両方破綻していました。これは INT より UX 損失が深刻です。
- INT の「閉じられない」: 「邪魔だな」と思って閉じるだけ。軽い不満
- RWD の「報酬不付与」: 「時間を払ったのに対価がない」。契約違反による深い不信感
ユーザーがアプリを開いて「報酬のために動画を見る」と能動的に選んだ後にこれが起きると、二度と RWD を見ない、もしくはアプリ自体を消すモチベーションが生まれます。
証拠 3 — 11 年クラッシュトレンドの時系列パターン
ここが決定打でした。App Store Connect の Analytics には、アプリの月別クラッシュ数を 2015 年以降の全期間で見られるグラフがあります。私の主要 5 アプリすべてで、グラフを 11 年スパンで開いてみました。
アプリ App ID 累計クラッシュ 2022年ピーク ベースライン 倍率
Beautiful 4K/HDR Wallpapers 706533906 224,148 8,500/月 1,000/月 8倍
Law of Attraction Everyday 841157677 7,360 350/月 100/月 3.5倍
Relaxing Healing 694492667 8,602 325/月 100/月 3.3倍
Ukiyo-e Wallpapers 835559799 2,380 125/月 50/月 2.5倍
旧 BW (632379876) 632379876 1,236 50/月 20/月 2.5倍5 アプリすべてが、2022 年(AppLovin を主要アプリに導入した時期)に明確なクラッシュスパイクを示しています。BW 4K/HDR は 8 倍、他は 2.5〜3.5 倍。さらに、2023 年以降も完全にはベースラインに戻らず、2〜3 倍水準で慢性化。
ここで重要な観察が 3 つあります。
- 時系列パターンが 5 アプリで共通 → アプリ固有のバグではない(私の側のコード起因なら、各アプリの実装は別なので 5 アプリ同時に同じパターンを描かない)
- 段階的悪化ではなく特定時点での突発スパイク → 環境変化(OS アップデートやデバイス世代交代)では説明できない
- 慢性化 → 一過性の SDK バグではなく、SDK 由来の構造的影響の可能性
偶然で説明できる相関ではありません。
「直すまでもなく切る」と判断する分岐点
「ユーザーが離れている」というシグナルを掴んだ時、選択肢は大きく 2 つあります。
- A: SDK を直してもらうために待つ/自分の側のコードで回避する
- B: SDK そのものを切る
通常はまず A から試します。InMobi や Liftoff のようなネットワークで個別の不具合が出たとき、私は SDK 更新を待ったり、メディエーションの優先順位を下げたりして対応してきました。今回 B に踏み切った理由は、上の 3 つの証拠から 「個別不具合ではなく構造的問題」 と判断したからです。
具体的には次の論理。
- 証拠 1(CTR 13% / RPC $0.0092)が示すのは「クリエイティブの品質」問題
- 証拠 2(報酬不付与)が示すのは「contract 問題」(広告サービスとしての約束破り)
- 証拠 3(11 年クラッシュトレンド)が示すのは「SDK 由来の構造的影響」
3 つが独立した側面で異常を示している以上、単発の修正待ちで治る種類のものではない、という判断です。
「直しを待つ」モードに留まっている間、毎月数百ドルの売上のために、ユーザーが沈黙離脱しているのを見ているのと同じ状態になります。私はこの状態を 6 ヶ月続けてしまっていました。気づいた時の判断は速いほどよい、というのが今回の学びです。