機能比較表で決めるのは、もうやめた
ノーコードやローコード、そして最近だと「AI ネイティブ」と呼ばれるアプリ開発ツールが増えすぎて、比較記事を読んでもどれがいいのか結局分かりません。私自身、表にされた機能対応マトリクスをいくつも眺めてきましたが、実際に触ってみると「書いてあった機能が、自分の使い方だと使い物にならない」というケースに何度もぶつかりました。
そこで、今回は逆のアプローチをとりました。自分の実務で必要になる最低限のアプリ要件を固定し、同じものを Rork / Bubble / Glide の 3 つで実際に作って、どこが詰まるか・どこが気持ちよく進むかを記録しました。この記事はその作業ノートをまとめ直したものです。
比較対象とした「最低限のアプリ要件」は、私自身が日々使いたかった「読書メモアプリ」です。読んだ本をリスト管理し、そこにメモと評価を付け、タグで検索できます。ログインは簡易的でよく、スマホから使えればよい。この程度の要件を、3 つのツールで同じ日のうちに組んでみました。
3 ツールの立ち位置を先に揃えておく
比較に入る前に、そもそも 3 つのツールが狙っている方向が違うことを共有しておきます。
Rork は、2024 年に登場した AI ネイティブのアプリ開発ツールです。「こういうアプリを作って」とプロンプトで指示すると、React Native ベースでアプリを生成してくれます。iOS / Android / Web のクロスプラットフォームに対応し、生成されたコードを見たり編集したりすることも可能です。
Bubble は、老舗のノーコード Web アプリ構築プラットフォームです。ビジュアルエディタで Web アプリのロジックを組み、データベースやユーザー認証を含めたフル機能の Web アプリを作れます。モバイル対応は Web アプリのレスポンシブデザインで対応する形が基本です(モバイルネイティブ機能は別途)。
Glide は、スプレッドシートやデータベースをベースにしたノーコードアプリビルダーです。Google スプレッドシートや Airtable のデータから、モバイル UI を持つアプリを素早く生成できます。データ駆動のシンプルなアプリを作るのに強く、ロジックよりデータの見せ方に寄っています。
この立ち位置の違いは、同じ要件をぶつけたときの「詰まり方」にそのまま現れてきます。
初期の立ち上げ速度 — Rork の強さが際立つ
読書メモアプリの「最初の動くバージョン」が出てくるまでの時間は、明確に Rork が一番速かったです。
Rork では、「本のリストを作って、タイトル・著者・メモ・評価を管理するアプリを作って」とプロンプトを書いてから、ログイン画面付きの動く iOS アプリが出てくるまで、体感で 10 分でした。見た目のクオリティも、そのままアプリストアに出せそうなレベル感があり、ここで 3 ツールのうち最速です。
Bubble は、データベーススキーマを定義し、画面を 1 枚ずつ組み、ボタンにワークフローを割り当てる、という手順を踏みます。これ自体は慣れれば手早くできるのですが、最初の動く状態までは 1〜2 時間かかります。Web アプリとしての柔軟性は高い代わりに、最初のセットアップの重さが出ます。
Glide は、Google スプレッドシートで「Books」というシートを作り、それを接続してテンプレを選ぶだけで、20 分ほどでアプリが出ました。データの表示と CRUD が中心のアプリなら、Glide の立ち上げ速度も優秀です。
立ち上げ速度だけで言えば Rork > Glide > Bubble の順番です。ただ、立ち上げ速度はツール選びの一要素に過ぎず、ここで決め打ちするのは早計です。
カスタマイズの自由度 — 詰まりどころはどこか
最初の動くバージョンから、自分が本当に欲しい形に近づけていく過程で、3 ツールの違いがくっきり出ました。
Rork の強さ、そして詰まりどころ
Rork は、生成されたアプリをプロンプトでさらに修正していけます。「タグ検索機能を足して」「評価を星アイコンにして」のような指示で、ほぼ即座にアプリが書き換わります。この「会話しながら育てる」体験は、Bubble や Glide にはないものです。
一方で、「プロンプトでは表現しきれない細かい調整」に入ると、コードを直接編集する局面が来ます。ここでは React Native の知識があるかどうかで、体感が大きく変わります。私は多少の React Native 経験があったので問題なく進みましたが、完全にノーコード志向の人には、この段差は戸惑いどころだと思います。
Bubble の詰まりどころ
Bubble は、ワークフロー(ボタン押下時の処理)や API 連携の自由度が高い半面、ロジックが複雑になるとビジュアルエディタの中で迷子になりがちです。特に条件分岐が入り組んでくると、「どのワークフローがどの条件で動くか」の見通しが悪くなります。
読書メモアプリ程度なら問題ない規模ですが、少し本格的にしようとすると、Bubble 特有の「ここは DB のクエリを飛ばして、この処理はプラグインに任せて...」という組み合わせの学習コストが効いてきます。
Glide の詰まりどころ
Glide は、シンプルな CRUD アプリならすごく快適ですが、「普通のアプリにある機能を足そうとすると途端に窮屈になる」点が厳しいです。例えば、タグを検索したときに「該当する本の一覧と、それぞれの直近メモも同時に表示する」ような、2 つのテーブルにまたがる表現は Glide の標準機能では回り道が必要です。
データの形が最初から決まっていて、その形のまま見せるアプリを作るなら Glide は強いのですが、「ここをもう少しこうしたい」という柔軟性を求めた瞬間に、天井に当たりやすくなります。
生成結果の品質 — 動くが、そのまま使うのは怖い
3 ツールとも、「動くアプリ」は作れました。ただし、それを本当に他人に使わせる状態まで持っていくには、3 ツールともそれぞれの注意点があります。
Rork は、生成されたコードが React Native ベースなので、パフォーマンスや見た目の品質はネイティブアプリに近いです。ただし、AI が生成したコードだということを忘れると、細かい部分の挙動が「なぜこう書いたのか」分からないまま残ります。私は、配布前に一度は生成コードを通読して、意図と違う部分を直す工程を入れました。
Bubble は、プラットフォーム側の責任で動くため、パフォーマンスや可用性はツールに依存します。個人開発で使う分には十分ですが、アクセス数が増えると、Bubble のプランやプラグインの挙動に引きずられます。
Glide は、アプリというよりは「データをスマホで見やすく表示するビューアー」の延長にあります。これが悪いわけではなく、用途に合えばすごく頼りになりますが、「本格的なアプリを作った」という充実感は少し薄めです。
毎月のコスト感 — 現実的な比較
実際に個人開発者として選ぶとき、無視できないのが月額コストです。2026 年 4 月時点の、私の実運用での感覚を書いておきます。
Rork は、利用量ベースの課金に寄っています。開発中はプロンプトの反復で消費が増えますが、完成後は実行時コストが中心になります。私の読書メモアプリ規模(個人利用)であれば、月額数ドル程度で収まりました。
Bubble は、プランベースの月額課金で、無料プランから本格プランまで幅があります。個人で本気で使うなら最低 $29/月あたりから。DB 容量とワークフロー実行数の上限に合わせてプラン選びが必要です。
Glide は、Personal / Pro プランがあり、個人利用なら無料〜低額プランで十分足ります。シンプルなアプリを回すには最もコスパが良い選択肢です。
コストだけ見れば Glide > Rork > Bubble の順で個人向け。ただし「やりたいこと」がツールに合っているかのほうがずっと大事です。
結局、どれを選ぶか
ここまで書いてきた通り、3 ツールには明確な得意分野があります。私の結論は、「1 つに絞らず、用途で使い分ける」でした。
- データを綺麗に見せるだけのアプリは Glide
- 複雑な Web アプリ(ユーザー同士のやりとり・ダッシュボード・管理画面)は Bubble
- スマホアプリとして配布したい新規プロダクトは Rork
読書メモアプリのように「モバイルで快適に動いて、カスタマイズの余地も残したい」案件には、私は Rork を選びました。生成されたコードを少し直して、自分好みに仕上げられる自由度と、AI と対話しながら進める体験の良さが決め手でした。
一方で、「小さなチームで日報を集めるアプリを作って」と言われたら、迷わず Glide を選ぶと思います。Google スプレッドシートを更新し続ける運用に慣れているチームなら、Glide が一番摩擦が少ないです。
Bubble は、現時点では「Web のロジック重視のプロジェクト」で依然強いツールです。ただ、Rork や同種の AI ネイティブなツールが、Bubble の得意領域の一部を食い始めているのは間違いありません。Bubble 側もこの流れに対応しようとしているので、数年後には勢力図が変わっている可能性があります。
まず触ってみるのが、結局いちばん速い
比較記事をいくつ読んでも、自分の作りたいものとの相性は、触らないと分かりません。私が今回作った読書メモアプリ程度のサイズなら、3 ツールをインストールして一つずつ触るのに、合計で半日もかかりません。
もし、これから AI で個人アプリを作り始めたい人がいるなら、私は Rork から触ることをおすすめします。作りたいものをプロンプトで伝えるだけで、とりあえず動くアプリが出てくるので、自分の要求がどこまで具体的かが分かります。そこから「もっとこうしたい」という要求が出てきたら、他のツールとの比較も自然にできるようになります。
道具は結局、自分の作りたいものとの相性で決まります。今回の比較が、その相性を探る最初のヒントになれば嬉しいです。